事故後10年間における福島沿岸域への137Cs流入量の経年変動
佐藤俊(2023年度 環境放射能学専攻 博士前期課程 修了)
発表概要
本研究では、2012年から2021年までの10年間を対象に、福島第一原子力発電所から沿岸海域への137Csの直接流入量と、河川を通じて海に流れ込む137Csの流入量を比較しました(図1)。河川経由での流入量については、溶存態137Cs(水に溶けている状態)での流入に加えて粒子態137Cs(浮遊懸濁物質に吸着された状態)の流入量を算出しました。その結果、福島第一原子力発電所からの直接流入量は東京電力(株)の漏洩対策等によって大幅に減少し、現在では台風のような大量出水時における河川からの粒子態137Csの流入とその海水中での溶脱が主な供給源となっていることがわかりました。さらに、推定した流入量から算出した沿岸海域の137Cs濃度は実際の海洋モニタリングの年次変化の傾向とおおむね一致しました。ただし、河川からの大量出水時には沿岸域での推定値が大きくなる傾向があり、沿岸域での137Csの動態について更なる解析の必要性が示されました。
本研究の意義
本研究では、陸域から沿岸域への137Csの流入について10年間の変動を明らかにしました。事故後初期は福島第一原子力発電所からの放出が中心でしたが、漏洩対策によって大きく減少し、現在は台風などの大量出水時に河川から流れ込む粒子態137Csの海水中への溶脱が主な供給源となっています。これらの成果は、沿岸域での137Csの長期的な影響の把握や今後の海洋モニタリングの計画等に役立ちます。
図表

(右図)事故後初期の3年間(2012-2014)と直近の3年間(2019-2021)における総流入量の比較
論文情報
論文はエルゼビア社が発行する学術誌Science of The Total Environmentウェブサイトに2025年9月11日にオンライン公開されています。
雑誌名 | Science of The Total Environment |
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論文タイトル | Ten-year temporal changes in the supply source of 137Cs released by the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant to the coastal area |
URL | https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2025.180380 |
著者 | 佐藤俊a,b*, 脇山義史a, 高橋史明b, 髙田兵衛a a国立大学法人 福島大学環境放射能研究所 b国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 *責任著者 |