学部時代よりも主体的に研究を進められる

修士課程1年 薄 実咲

福島大学共生システム理工学研究科環境放射能学専攻に入学した理由を教えてください。

私が中学二年生の時に原子力発電所事故が起きました。私は福島県出身なのですが、事故後に報道され始めた放射能がどんなものか全く知らない状態で、怖いなと思った記憶、衝撃が残っていました。

大学に進学するにあたり環境放射能がどういうものかを学べるのは地元の福島大学ではないかと思い入学を志望しました。学部4年生の時に、ため池の堆積物とコイの放射性セシウムについての研究をしていたのですが、分析結果から考察することが自分にとって大きな学びになりました。そこで研究を続け新しい発見があればと思い、学部の研究をさらに深めることができる環境放射能学専攻に進学しようと決めました。

研究内容と、その研究の面白さについて教えてください。

現在は、ため池環境中の魚類における放射性セシウム濃度について調べていて、生物によって放射性セシウムの蓄積過程やメカニズムの違いがあるのではないかということを詳しく見ていこうとしています。具体的にはコイとフナに注目しています。フナの方が放射性セシウムを多く体内に持っていると言われているのですが、この2種類の魚は同じコイ科に属する魚です。どうしてこのような違いがあるのかというのは興味があるところです。

生物における放射能の影響については様々な報告があり、研究も幅広く行われていますが、まだまだ知らないことばかりであることも事実です。研究を通して少しでもデータを集め、これからの環境放射能の分野で役立つ情報となればいいなと思っています。

大学院生としてどのような毎日を過ごしていますか。

フィールド調査がある日は、早朝から調査の準備をし、現地で空間線量や水質の測定などを行ないます。 渓流調査の場合は魚の採捕や砂の採取などもします。調査を行うのは県内の海側の地域が多く、 フィールド調査は一日仕事になりますね。 力仕事ですし、胴長を着て川に入ることもあり、とにかく大変です。採取したものは前処理をした後、研究所のゲルマニウム半導体検出器を用いて放射性セシウム濃度の測定を行います。 また、外部の研究所に訪問することもあります。研究以外では、TAとして学部生の授業の手伝いをしています。夏には猪苗代湖での水質調査に同行しました。

大学院での経験を将来どのように活かしたいと思いますか。

卒業後は、学んできた知識と経験を活かし、地元に貢献できるような職業につきたいと思っています。作物や生物における放射能の問題はまだまだ多く、根強く残る風評被害を払拭するのは長い時間がかかると思いますが、ここ福島の地で私が出来る事はなにかを考えながら生活したいです。大学院生活では、福島大学だけなく他の様々な研究機関の方々の研究に触れる機会も多いのですが、研究者として働く姿はひとつの憧れだなと感じています。

最後に、受験を考えている方に、環境放射能学専攻の魅力を伝えてください。

環境放射能学専攻は、多様な専門領域で研究・実績を積み重ねている優秀な先生方がいます。ウクライナの原子力発電所事故での周辺環境や生物への影響について研究されている先生方もたくさんいらっしゃり、様々な知識を得る事ができます。また、英語での授業もあるので英語力向上にもつながると思います。とくに興味深かった講義は塚田先生の授業で、これまでの日本の放射能にまつわる科学史の話をお聞きしました。塚田先生は青森県での放射能関連の研究に携わっていましたが、実際に長年研究を行ってきた先生のお話を聞けるのはとても有意義です。

もともと私は、大学院に進学して研究を続けるつもりはありませんでした。けれども研究を進めるうちに楽しくなってきて、シンプルな理由ですがそれが今につながっています。1期生としての不安もありましたが、学部時代よりも主体的に研究を進められる今の生活は、とても充実しています。

インタビュー:2019年10月