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IER活動記

令和2年度

令和3年3月18日(木) 第7回成果報告会を開催しました。

IERでは、研究成果を一般の方々や専門家に報告し意見交換を行う場として、毎年3月に成果報告会を開催しています。第7回となる本会は、新型コロナウィルス感染症の感染拡大状況を考慮し、初めてのオンライン開催となりました。

詳しくはこちらをご覧ください。

令和3年2月22日(月) 第11回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和3年2月22日(月)14:00~16:00
演 題 1) The dynamics of Cs-137 in a pond of urban area after decontamination
(黒澤 萌香 環境放射能学専攻 修士1年)

2) Activity concentration of radio caesium and internal radiation doses from self-consumed crops in evacuation order cancellation zone
(菊池 美保子 環境放射能学専攻 修士2年)

3) Using the specific ratio of 137Cs (137Cs/133Cs) to estimate the active root zone of plants (Nguyen Phuong Thoa 共生システム理工学専攻 博士2年)

4) Selective separation of Technetium-99 from aqueous matrix using solid-phase extraction systems (Md. Ferdous Alam 共生システム理工学専攻 博士2年)

2月22日、第11回IERセミナーを開催しました。令和2年度最後の開催となった今回は、当研究所教員のもとで研究活動をしている本学大学院共生システム理工学研究科の修士・博士学生の合計4名が、それぞれの研究課題の進捗報告を行いました。発表は英語で行われ、大学院生や教員ら、ウェブ聴講者を含めて25名が参加しました。

発表後には、指導教員や他分野の研究者から意見やアドバイスが多々挙げられ、活発な質疑応答が行われました。

今回発表した学生は令和3年度に卒業を控えています。修士論文、博士論文の執筆に向け、有意義な意見を得られたようでした。

大学院生4名による研究課題の報告が行われた(写真上)

令和3年1月25日(月) 第10回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和3年1月25日(月)14:00~16:00
発表者
※発表順
石庭 寛子 特任助教
平尾 茂一 講師
アレクセイ コノプリョフ 特任教授
演 題 1) Effect of low water level in cooling pond on small mammals inhabiting around Chernobyl nuclear power plant(石庭)
(クーリングポンドの水位低下がチェルノブイリ原発周辺に生息する小型哺乳類に与える影響)
2) Investigation of tritium behavior in Okuma (平尾)
(大熊町におけるトリチウムの動態に関する調査)
3) Long-term dynamics of radionuclides in rivers and ponds: Fukushima and Chernobyl (コノプリョフ)
(河川やため池における放射性核種の長期的動態:福島とチェルノブイリ)
石庭 石庭特任助教

1月25日に行われた第10回IERセミナーでは、石庭寛子特任助教、平尾茂一講師、アレクセイ コノプリョフ特任教授の3名が発表を行いました。研究者や大学院生21人(ウェブ聴講者も含む)が参加しました。
今回はIERがウクライナの研究機関と共同でチェルノブイリにおいて展開するSATREPSチェルノブイリプロジェクトに関する研究成果の報告が2件(石庭特任助教、コノプリョフ特任教授)含まれました。

平尾 平尾講師

アカネズミの放射線被ばくを研究する石庭特任助教は、チェルノブイリにおけるクーリングポンド(冷却水供給池)の水位低下が原発周辺地域に生息する小型哺乳類へ及ぼす影響について、生態学・遺伝子研究の観点から発表しました。

平尾講師は、大気中における放射性核種の輸送拡散モデルを研究しており、大熊町におけるトリチウムの動態に関する調査について発表しました。

コノプリョフ コノプリョフ特任教授

コノプリョフ特任教授は、2015年より大熊町のため池の水や泥を継続的に採取して放射性セシウム濃度の長期観測を実施しています(2月3日プレスリリース)。セミナーでは、河川やため池における放射性核種の長期的な動態や、福島とチェルノブイリの比較に関するさらなる研究成果を発表しました。

令和3年1月18日(月) 第9回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和3年1月18日(月)14:00~15:00
発表者
※発表順
鳥居 建男 特任教授
辰野 宇大 プロジェクト研究員
演 題 1) Visualization of environmental radioactivity and gamma-ray imaging (鳥居)
(環境放射能の視覚化とガンマ線イメージング)
2) Effect of dissolved organic matter on Cs migration in a weathered granite soil under water flowing condition (辰野)
(溶存性有機物が流水条件下の風化花こう岩土壌におけるセシウムの移動に及ぼす影響)

1月18日、新年最初のIERセミナーでは、今年度IERに新たに着任した鳥居建男特任教授と辰野宇大プロジェクト研究員の2名による発表が行われました。IER研究者や大学院生17人(ウェブ聴講者も含む)が参加しました。

鳥居 鳥居特任教授

放射線計測が専門の鳥居特任教授は、原発事故で飛散・沈着した放射性物質の分布の可視化技術の開発研究をしています。この日は、ドローンを含む様々な遠隔測定システムや、放射性物質から発生するガンマ線を捉えるイメージングシステムの開発等、最新の研究成果を発表しました。

辰野 辰野研究員

続いての発表者、辰野研究員は環境動態解析や土壌化学が専門で、土壌や河川の泥などに含まれる放射性微粒子を対象に研究をしています。セミナーでは、水に溶けた状態の有機物が土壌のセシウムの移動に与える影響に関する研究成果を発表しました。

令和2年12月21日(月) 第8回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年12月21日(月)14:00~16:00
発表者
※発表順
金指 努 プロジェクト研究員
二瓶 直登 准教授 (福島大学農学群食農学類)
ヴァシル ヨシェンコ 教授
演 題 1) Relationships of 137Cs between riparian forests and headwater streams(金指)
(渓畔林と渓流における137Cs の挙動)
2) Cesium absorption by soybeans / Deposition of resuspended radiocesium
(二瓶) (大豆によるセシウム吸収 / 再懸濁した放射性セシウムの沈着)
3) Multifaceted effects of chronic radiation exposure in Japanese red pines from Fukushima prefecture (ヨシェンコ)
(福島県のアカマツにおける慢性放射線被ばくによる多面的影響)
金指研究員 金指プロジェクト研究員

12月21日、第8回IERセミナーを行いました。今回は、福島大学農学群食農学類(以下、食農学類)から二瓶直登准教授にも参加いただき、金指努プロジェクト研究員、ヴァシル ヨシェンコ教授の計3名の研究者が研究成果を発表しました。研究者や大学院生ら27名が参加しました。

森林生態学が専門の金指研究員は、森林および渓流の生態系における放射性核種の動態を研究しており、福島県の渓畔林と渓流における137Cs の移行について、落葉や土壌と渓流域に生息する魚類との関連性に着目した研究の進捗状況を発表しました。

二瓶准教授 食農学類の二瓶准教授

食農学類の二瓶准教授は、植物栄養学・放射線環境工学が専門です。今回は農作物の放射性セシウム吸収について、大豆と小松菜を対象とした研究結果を発表しました。大豆における放射性セシウムの濃度分布やセシウム吸収に関係するとされる遺伝子、また小松菜における放射性セシウム沈着に影響する要因などに焦点を当てた研究内容に、参加者は興味深く聞き入っていました。

ヨシェンコ教授 研究成果を解説するヨシェンコ教授

放射生態学が専門のヨシェンコ教授は、福島県のアカマツにおける放射線被ばくによる影響に関して、放射線影響による植物ホルモンバランスの変化と形態異常との関係について発表しました。(参考:12月2日プレス発表資料「福島県内でみられる被ばく線量に応じて発生するアカマツの形態異常の発生メカニズムに迫る研究成果」

それぞれの発表後には質疑応答が相次ぎ、活発な意見交換が行われるなか、年内最後のIERセミナーは無事に終了しました。


塚田教授
参加者からは多くの質問・意見が挙がりました(左右)
大変な状況下ですが、皆様どうぞよいお年をお迎えください。


令和2年12月1日(火) 福島工業高等専門学校の皆様が来所しました。

研究者による研究内容の紹介 研究者による研究内容の紹介

福島工業高等専門学校(福島高専)の学生の皆様3名と油井三和特命教授が来所しました。
福島県いわき市にある福島高専は、5年一貫の高度な専門教育を行う本科と、本科卒業後に進学する2年制の専攻科からなる国立の高等教育機関で、本学の教員とも連携して研究教育活動を行っています。今回は、化学・バイオ工学科5年(大学2年に相当)と産業技術システム工学専攻科1年(大学3年に相当)の皆様が、IERの研究や大学院(環境放射能学専攻)について理解を深めることを目的にIERを訪れました。

大学院生との座談会 大学院生との座談会

はじめに難波謙二所長よりIER設立の過程や組織の概要を説明した後、平尾茂一講師、高田兵衛特任准教授、イスマイル ラハマン准教授より、それぞれ大気・海洋・環境分析化学と幅広い専門分野の研究紹介を行いました。

その後、環境放射能学専攻の大学院生3名との座談会の時間を設け、大学院での研究や学生生活について知りたいこと、疑問に思うことなどを学生同士で自由に話をしていただきました。

分析化学の研究について話す高貝教授 分析化学の研究について話す高貝教授

最後に、分析化学が専門の高貝慶隆教授より、様々な分析装置が稼働しているIER分析棟と共生システム理工学類棟の案内がありました。廃炉技術開発にも携わる高貝教授からは、今後の廃炉作業でどんな技術が必要になるのか、それを実現するために行っている最先端の研究について紹介がありました。

院生自身が研究で使用する分析機器を説明 院生自身が研究で使用する
分析機器を説明

今回の見学を通して、多様な専門分野を背景とするIERでの環境放射能学研究について理解と関心をより深め、大学院についても興味を持っていただけたなら一同喜びとするところです。

令和2年11月30日(月) 第7回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年11月30日(月)14:00~15:10
発表者 イスマイル ラハマン 准教授
和田 敏裕 准教授
演 題 1) Selective removal of radionuclides from liquid waste.(ラハマン)
(廃液からの放射性核種の選択的除去)
2) Uptake and excretion of 137Cs in Japanese dace, a cyprinid fish, under different salinity conditions revealed by rearing experiments using litter-derived 137Cs in water.(和田)
(落葉由来の137Cs含有水を用いた飼育実験で明らかになった、異なる塩分条件下でのコイ科ウグイの137Csの取込と排出)
研究進捗を報告するラハマン准教授

環境放射能研究所(IER)では、所属研究者同士の交流、研究内容の研鑽を目的に、所属研究者による研究成果報告を「IERセミナー」として定期的に行っています。今年度7回目のIERセミナーでは、2名の研究者による研究成果の発表があり、研究者や大学院生ら29名(ウェブ聴講者含む)が参加しました。

最初の発表者、イスマイル ラハマン准教授は、環境分析化学が専門で、環境回復や廃水処理の研究をしています。発表では、廃液からの放射性核種の選択的除去、とりわけ超分子技術を用いたストロンチウムの除去について研究の進捗を報告しました。

淡水魚ウグイ 魚類生態学が専門の和田准教授

続けて、魚類生態学が専門で魚類の放射性セシウム汚染について研究を行っている和田敏裕准教授が研究成果を報告しました。和田准教授は、落葉由来のセシウムを含む飼育水により魚中のセシウム濃度を高く保つ飼育方法を開発。この飼育方法を用いた試験により、異なる塩分条件下でのウグイ*のセシウムの取込と排出のメカニズムの解明に迫りました。

発表後には、研究者の間で活発な意見交換が行われました。

淡水魚ウグイ コイ科の淡水魚ウグイ

(*注)日本や周辺国の内陸から沿岸域の多様な水質環境に広く生息する淡水魚ウグイは、放射生態学研究のモデル生物として最適な魚で魚類の放射性セシウム汚染のメカニズムを導き出すことに役立つことが期待されます。


令和2年11月27日(金) 楢葉中学校で第15回研究活動懇談会を開催しました。

11月27日に楢葉中学校(福島県楢葉町)にて、研究活動懇談会を開催しました。この懇談会は、研究成果を地域に還元するために2016年より定期的に開催しているもので、当研究所にとって重要な活動です。

詳しくはこちらをご覧ください。

令和2年11月14日(土) 福島市で第14回研究活動懇談会を開催しました。

11月14日に福島市にて、研究活動懇談会を開催しました。この懇談会は、研究成果を地域に還元するために2016年より定期的に開催しているもので、当研究所にとって重要な活動です。

詳しくはこちらをご覧ください。

令和2年11月9日(月) シニアネットワーク東北の皆様が来所しました。

シニアネットワーク東北は、日本原子力学会内に設置されているシニアネットワーク連絡会の東北地方での活動拠点として、エネルギーや原子力・放射線についての理解を広げるため、学生や市民との対話活動などを行っている団体です。主に、大学教員OB、原子力関連企業や電力会社の皆様がメンバーとして活動しており、今回はメンバーの勉強会の一環として、9名の方がIERに見学にいらっしゃいました。

塚田祥文教授によるIER設立の経緯や研究内容についての説明を受けた後、保有する分析機器や保管試料などを見学いただき、IERが行っている原発事故後の環境放射能の調査、研究について理解を深めていただきました。

見学後には、大学附属の研究機関として、今後も息の長い研究と人材育成に期待しています、との感想をいただきました。

今回の見学により、シニアネットワーク東北の活動がより一層活発になり、福島の現状について広く知っていただくための一助となれば幸いです。

令和2年10月26日(月) 第6回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年10月26日(月)14:00~14:45
発表者 塚田 祥文 教授
演 題 Transfer of 137Cs and 90Sr from soil to potato: Interpretation on linking from global fallout in Aomori to accidental released in Chernobyl and Fukushima.
(土壌からじゃがいもへのセシウム137およびストロンチウム90の移行:青森のグローバルフォールアウトからチェルノブイリ・福島の原発事故由来の放射性物質までの関連性の解釈)

環境放射能研究所(IER)では、所属研究者同士の交流、研究内容の研鑽を目的に、所属研究者による研究成果報告を「IERセミナー」として定期的に行っています。第6回IERセミナーでは、環境放射生態学が専門で陸圏環境での放射性核種の動態を研究する塚田 祥文教授が、ウクライナのチェルノブイリにおける土壌からじゃがいもへのセシウム137(137Cs)とストロンチウム90(90Sr)の移行に関する研究成果を発表しました。研究者や大学院生ら21名(ウェブ聴講者含む)が参加しました。

チェルノブイリのじゃがいも試験圃場 チェルノブイリのじゃがいも試験圃場

ウクライナではじゃがいもが主食のひとつですが、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故から30年以上が経過した今でも、未だに原発から30km圏内の立入禁止区域では、活動が厳しく規制され農業の再開には至っていません。

2019年のSATREPSプロジェクトにおいて、塚田教授はウクライナの研究者と協力してチェルノブイリ立入禁止区域の4地点において試験圃場を整備し、土壌からじゃがいもへの137Cs および90Sr の移行について調査しました。

土壌の放射性核種が大気圏核実験由来*の青森や原発事故由来の福島での調査結果と比較した結果、放射性核種が土壌からじゃがいもへ移行する割合は、土壌に含まれるカリウムやカルシウム濃度に左右されることや地質の違いによることなどがわかりました。塚田教授は、そうした移行メカニズムの解明により、 大気圏核実験由来であっても事故由来であってもじゃがいも中の放射能濃度を高精度に、簡易に求めることが可能な方法を示しました。

土壌から作物への放射性核種の移行は、普段の食生活や食の安全に関わる身近な課題ともいえます。今後さらなる研究成果が期待されています。

注)環境中に存在する放射性核種のなかには、主に1950~60年代の大気圏核実験により放出され地球全域に降下したものがあり、グローバルフォールアウト(地球規模の放射性降下物)と呼ばれています。

塚田教授
IERセミナーで研究成果を報告する塚田教授

令和2年10月8日(木) 福島県立福島高等学校の皆さんが来学しました。

福島県立福島高等学校1年生40名の皆さんと先生方2名が来学しました。
福島高等学校は文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクールに指定されており、そのプログラムの一環として、研究に触れること、大学を知ることなどを目的に本学を訪れました。

はじめに、福島大学や共生システム理工学類の概要、研究紹介などの講義がありました。続いて、IERから難波 謙二所長、アレクセイ コノプリョフ特任教授、石庭 寛子特任助教の3名の研究者が、それぞれ15分ほどの講話を通してIERでの研究内容を紹介しました。研究者としての歩みや研究対象の野生動物、フィールドワークの話など、それぞれに印象的な内容が語られ、高校生の皆さんは一様に真剣なまなざしでメモをとりながら耳を傾けていました。

その後は、二つのグループに分かれてIER分析棟に移動し、分析装置の設置された実験室などを見学していただきました。分析棟には、試料から放射線を検出するゲルマニウム半導体検出器や、全種類の元素の質量分析が可能なICP質量分析装置などの大型機器が多数設置されており、IER研究者による分析機器についての説明に興味深そうに聞き入っていました。また、研究の裏話に笑みがこぼれる場面もありました。

高校生の皆さんは、それぞれに進路や将来への目標をお持ちのことと思います。今回の見学が、福島大学での学びに関心を深めていただくきっかけになればと願っています。

コノプリョフ特任教授 石庭特任助教
コノプリョフ特任教授(左)、石庭特任助教(右)らの研究紹介を熱心に聞き入る高校生の皆さん

参加者 質疑応答
高田特任准教授(左)や難波所長(右)らがIER分析棟を案内しました

令和2年10月3日(土)、4日(日) 「環境放射能学セミナー in 伝承館 ~環境影響や廃炉技術の最先端から将来の復興知を育む~」を開催しました。

日 時 令和2年10月3日(土)、10月4日(日)
場 所 東日本大震災・原子力災害伝承館 (福島県双葉町)

福島大学環境放射能研究所(IER)は、9月20日に福島県双葉町に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館(以下、伝承館)において、福島県内の学生を対象に「環境放射能学セミナーin 伝承館~環境影響や廃炉技術の最先端から将来の復興知を育む~」を開催しました。本セミナーは、⼤学等の復興知を活⽤した福島イノベーション・コースト構想促進事業(「復興知」事業*)の令和2年度採択事業において、IERが事業主体の長崎大学と連携して人材育成プログラムの一環として行うものです。

伝承館館長 高村教授 参加者に語りかける伝承館館長 高村昇教授

セミナーには、環境放射能学や廃炉技術を専攻する、または学びたいと考えている福島大学および福島工業高等専門学校の24名の学生が参加しました。伝承館館長 高村 昇教授(IER副所長、長崎大学福島未来創造支援研究センター センター長)は初日の開会のあいさつで、「原発事故という不幸な出来事を糧にして伝承して学ぶことが次世代への備えとなる」と伝承館設立の意義について説明するとともに「事故後10年間の福島での環境放射能という分野の取り組みについてセミナーを通して学んでほしい」と参加者に呼びかけました。

中間貯蔵施設見学 中間貯蔵施設の見学

2日間のプログラムでは、IERに所属する8名の研究者が最新の研究成果を紹介したほか、伝承館展示や中間貯蔵施設および復興再生事業が進む双葉駅周辺の見学、学生による研究発表やグループディスカッションなどの活動を行いました。学生たちは、各分野の研究者の話に真剣に耳を傾けて最先端の研究について学んだほか、各施設見学では、担当者の方々から直接話を聞き、原発事故の記憶と現実に向き合いました。セミナー終盤のグループディスカッションでは、一連の発表や施設見学から印象に残ったキーワードを学生全員が挙げ、感じたことや問題意識を共有しました。

グループディスカッション グループディスカッションの様子

参加した学生からは、「伝承館展示見学から、津波や原発事故の被災者の辛い経験が生々しく伝わってきた」「被災者の現状や問題を理解することができた」「同じ学生という立場の自由な意見を多く聞くことができた」「これからのモチベーションを高めることができた」といった感想が挙げられ、それぞれの気づきに考えを巡らせている様子でした。

今回のセミナーでは、福島の環境放射能研究や被災地の復興について、学生の方々により関心を広げていただくことができたと同時に、研究所としても学生の率直な声を直接聞くことができた貴重な機会となりました。IERでは、今後も研究成果の発表や学生との交流の機会を創出し、福島県や浜通り地域の復興に資する活動を継続して参りたいと考えています。

(*注)「復興知」事業について
(公財)福島イノベーション・コースト構想推進機構により、福島県復興に資する知を浜通り地域等に誘導・集積するため、浜通り市町村等において組織的に教育研究活動を行う大学等を支援する学術研究活動支援事業(「復興知」事業)が実施されています。

集合写真
参加者集合写真
研究者による研究紹介タイトル 発表者
放射線被ばくと甲状腺 ~フィールド研究への誘い(いざない)~ 東日本大震災・原子力災害伝承館 館長
福島大学 環境放射能研究所 副所長
長崎大学 福島未来創造支援研究センター センター長
高村 昇
福島大学での環境放射能研究 福島大学 環境放射能研究所 所長
福島大学 共生システム理工学類 教授
難波 謙二
福島第一原子力発電所事故後の遠隔モニタリングと廃炉に向けた放射線の“可視化”技術 福島大学 環境放射能研究所 特任教授
鳥居 建男
Selective removal of radionuclides from liquid waste
(廃液からの放射性核種の除去)
福島大学 環境放射能研究所 准教授
イスマイル ラハマン
福島第一原発の汚染水分析のために地元化学者が挑んだ9年間の奮闘と廃炉技術が切り開く新しい未来へ  福島大学 環境放射能研究所
福島大学 共生システム理工学類 教授
高貝 慶隆
海と川の魚は語る ~双葉町の調査から分かってきたこと~ 福島大学 環境放射能研究所 准教授
和田 敏裕
海水の放射能の推移と今後の復興に向けて 福島大学 環境放射能研究所 特任准教授
高田 兵衛
アカネズミのセシウム汚染と新たな技術を用いた影響評価の試み 福島大学 環境放射能研究所 特任助教
石庭 寛子

令和2年10月2日(金) IER特別セミナーを開催しました。

日 時 令和2年10月2日(金)14:00~15:10
発表者 百島 則幸 氏(九州大学名誉教授、(一財)九州環境管理協会理事長)
演 題 環境トリチウムについて

環境放射能研究所(IER)では、外部から講師を招いたIER特別セミナーを不定期に開催しています。今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響でこれまで開催することができませんでしたが、10月2日に初めてのIER特別セミナーを開催することができました。サーモカメラによる体温計測、会場の机や椅子の消毒、参加者のマスク着用、手指の消毒等の感染防止対策の上、実施されました。

今回のセミナーは(一社)福島県環境測定放射能計測協会に共催いただき、講演者として九州大学名誉教授で(一財)九州環境管理協会理事長でもいらっしゃる百島則幸先生をお迎えしました。「環境トリチウムについて」をテーマとしたセミナーには、38名が会場に参加し、オンラインでも15名の参加がありました。

講演は70分という短い時間ではありましたが、講演の内容はトリチウムの生成メカニズム、環境動態、原子力発電所からの放出量、環境中の濃度と多岐に渡り、福島第一原発のトリチウム水が問題となっている中、非常に参考になる事が多く、参加者は皆熱心に傾聴していました。


百島則幸教授
講演する百島則幸先生

令和2年9月30日(水) 第5回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年9月30日(水)14:00~16:00

第5回IERセミナーでは、今年度に修士課程を修了予定の院生6名(福島大学大学院共生システム理工学研究科 環境放射能学専攻修士課程2年)が、それぞれの研究課題の進捗について中間報告を行いました。発表は英語で行われ、学生や教員ら28名が参加しました。

発表後には、指導教員のほか、他分野の研究者からも意見やアドバイスが多く出され、院生の皆さんは質疑応答にも丁寧に応じていました。発表を行った修士課程2年の皆さんは、IERに環境放射能学専攻修士課程が開設された平成31年4月に入学した第一期生です。修士課程修了を控え、それぞれの研究の集大成に向けて頑張ってほしいと思います。

演 題 1) Radiocesium concentrations in experimentally cultured carp, other fish, and sediments of an irrigation pond in Koriyama City (薄 実咲)

2) Studies on the effective dose for public based on air dose rate (遠藤 佑哉)

3) Detection of 60Co released from the 2011 Fukushima Daiichi Nuclear Power Station accident (沖澤 悠輔)

4) Accumlation of radiocaesium in bryophytes (大槻 知恵子)

5) Temporal variation in 137Cs in the Niida river catchment during rainstorm events (新井田 拓也)

6) Evaluation of vegetation index in Abukuma river basin for estimation of soil erosion (イデア ロア)

第5回IERセミナー
修士課程2年生による研究課題の中間報告が行われた

令和2年9月28日(月) 第4回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年9月28日(月)14:00~14:30
発表者 高田 兵衛 特任准教授 
演 題 Suspended particle−water interactions increase dissolved 137Cs activities in the nearshore seawater during Typhoon Hagibis.
(台風時の土砂流出による福島沿岸域の海水中セシウム137濃度上昇:粒子からの溶脱作用について)

環境放射能研究所(IER)では、所属研究者同士の交流、研究内容の研鑽を目的に、所属研究者による研究成果報告を「IERセミナー」として定期的に行っています。

第4回IERセミナーでは、研究者や大学院生ら25名の参加のもと、海洋化学・地球化学が専門の高田兵衛特任准教授が「台風時の土砂流出による福島沿岸域の海水中セシウム137濃度上昇:粒子からの溶脱作用について」と題して発表を行いました。

福島県沿岸部では、海水中のセシウム137濃度が事故前よりも高い値を維持しています。 高田特任准教授は、この状況を説明する要因の一つとして河川からの影響を考えました。そこで、令和元年6月から10月に採取された福島県沿岸部の海水を調べたところ、令和元年10月の台風19号通過後の溶存態セシウム137濃度が通過前に比べて上昇していることが分かりました。今回の海水サンプルの分析結果と過去の室内実験との解析により、これは台風通過時に多量の土砂に含まれるセシウム137が海水に溶けだしたことが原因であると考えられました。 さらに、モデルによる検証においても河川からの影響を反映した結果となりました。

これらの研究成果に関して、高田特任准教授は9月2日に福島大学定例記者会見で発表を行い、新聞各紙およびNHKニュースで取り上げられるなどの反響がありました。(令和2年9月2日 プレス発表資料「令和元年10 月の台風19 号による土砂流出が福島沿岸の溶存態放射性セシウム濃度を上昇させた一因と評価」
 参加者は発表を熱心に聞き入り、質疑応答では質問やコメントが活発に交わされました。


高田特任准教授 発表の様子
研究成果を発表する高田兵衛特任准教授

参加者 質疑応答
セミナー参加者の様子(左)発表後には質問やコメントが活発に交わされた(右)

令和2年9月15日(火) 第3回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年9月15日(火)14:00~16:00
発表者 森高 祥太 (共生システム理工学研究科 環境放射能学専攻修士課程2年)
ドノヴァン アンダーソン (共生システム理工学研究科 共生システム理工学専攻博士課程3年)
演 題 1) Seasonal fluctuation of Cs-137 concentration and water quality in Abukuma River revealed by long-term monitoring (森高)
2) The 2011 Tohoku disaster’s impact on wild boar populations within Fukushima Prefecture: Genetic and radiological contamination (アンダーソン)
                          

第3回IERセミナーでは、今年度卒業予定の大学院生が、それぞれの修士・博士論文に関する研究課題の進捗について英語でプレゼンテーションし、中間報告を行いました。セミナーには、学生や教員ら28名が参加しました。

最初に、河川水の放射性セシウムの動態について研究する森高さん(修士2年)が、8年間の長期観測データの分析結果に基づき、阿武隈川河川水のセシウム137濃度および水質の季節変化に関する研究についての中間報告を行いました。その中で、阿武隈川河川水の溶存態セシウム137濃度が夏に増加し冬に減少することや、その季節変化と水稲栽培で行う代掻きや落葉からの溶存態セシウム137の溶出との関係について研究成果を発表しました。

次に、放射線生態学、遺伝学、および放射線生物学の研究をする米国出身の国費留学生ドノヴァン アンダーソンさん(博士3年)が、2011年東日本大震災・原子力災害による福島県内のイノシシへの影響について、遺伝子および放射線研究の両側面から研究成果を発表しました。アンダーソンさんの研究では福島県内のイノシシ338頭の調査を行い、帰還困難区域におけるイノシシと飼育ブタとの交雑による遺伝子移入の問題が発生していることや、染色体異常などの放射線による影響は確認されなかったことなどの研究成果が報告されました。

質疑応答では、院生への質問、研究へのアドバイスが飛び交い、それぞれの研究の集大成に向けて有意義なセミナーとなりました。


森高さん アンダーソンさん
修士課程の森高さん(左)と博士課程のアンダーソンさん(右)がそれぞれの研究課題の進捗を報告

セミナー参加者 院生へのアドバイス
熱心に聞き入る参加者(左)発表後には質問やアドバイスが交わされた(右)


令和2年8月31日(月) 第2回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年8月31日(月)14:00~16:00
発表者 脇山義史 講師
マーク ジェレズニヤク 特任教授
演 題 1) Dynamics of 137Cs in the Abukuma river catchment due to the typhoon Hagibis.(脇山)

2) Distributed modeling of radionuclide washing out from the watersheds in solute and with suspended sediments: case studies Abukuma River, Fukushima Prefecture and Pripyat Dnieper river system, Ukraine (ジェレズニヤク)
                          

環境放射能研究所(IER)では、所属教員同士の交流、研究内容の研鑽を目的に、所属教員による研究成果報告会「IERセミナー」を定期的に行っています。今年度2回目となる今回のIERセミナーは、新型コロナウイルス感染防止に引き続き十分に留意しながら、27名の参加(ウェブ聴講者含む)のもと行われました。

初めに水文地形学が専門の脇山講師が、昨年の台風19号通過にともなう福島県阿武隈川集水域におけるセシウム137の動態について発表をしました。昨年10月に日本列島を通過した台風19号は河川の氾濫など各地に甚大な被害をもたらしました。脇山講師は、この台風による出水期間中に阿武隈川下流の地点で河川水の採水・分析を行い、流域全体から流出したセシウム137の量を推定しました。また、2018年10月と2019年10~11月に流域内6か所の氾濫原で行ったセシウム137の深度分布調査の結果からは、台風19号によって氾濫原上のセシウム137の空間分布が変化したことが示唆されました。

次の発表者ジェレズニヤク特任教授は、放射能水文学が専門でチェルノブイリ事故や福島第一原子力発電所事故後の地表水の放射性核種輸送モデルなどを主に研究しています。セミナーでは、河川流域から河川水に溶けた状態で、あるいは土砂堆積物に付着して流出する放射性核種の分布モデルについて、福島県の阿武隈川とウクライナのドニエプル川の事例研究にもとづいて発表しました。二人の発表後には、参加したIERの研究者から質問やコメントが寄せられ意見交換が行われました。


脇山講師 ジェレズニヤク特任教授
発表する脇山講師(左)とジェレズニヤク特任教授(右)

ゲルマニウム半導体検出器について説明を受ける生徒の皆さん 塚田教授、小山教授と生徒の皆さんで記念撮影
IERセミナーにて質疑応答の様子。IER研究者による意見交換が行われた(左・右)


令和2年8月3日(月) 福島県立安積高等学校の皆さんが来所しました。

福島県立安積高等学校1年生5名の皆さんが見学に訪れました。
安積高校は文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクールに指定されており、取り組みのひとつである「地域創生」をテーマにした授業の一環として、放射線の農作物への影響や風評被害への対策について生徒さん自身より問合せをいただいたのが今回の見学のきっかけとなりました。

生徒の皆さんの希望にお答えし、当研究所の塚田祥文教授が放射性物質の農作物への影響について、食農学類の小山良太教授が風評被害への取り組みについて講義をされました。

土壌から稲への放射性セシウムの移行メカニズムなどについて説明した塚田教授の講義の中には、かなり専門的な内容も含まれていましたが、皆さん真剣な表情でメモをとっている様子が印象的でした。また小山教授は震災から9年以上が経過し、現在の福島県産和牛や米の低価格の原因が単なる風評被害にとどまらず、市場の構造的な問題となっていることについてお話をされました。

最後に当研究所が保有するゲルマニウム半導体検出器を見学いただきました。様々な試料がどのように分析されるのか、イメージを持っていただくことができたようです。

小学校入学直前に東日本大震災を経験された生徒の皆さんは当時の事をあまり覚えていないということですが、今回の見学が地元・福島の課題に目を向けると同時に、科学的な視点も身に付けるきっかけとなれば幸いです。


塚田教授 小山教授による講義
塚田教授(左)と小山教授(右)による講義 

ゲルマニウム半導体検出器について説明を受ける生徒の皆さん 塚田教授、小山教授と生徒の皆さんで記念撮影
ゲルマニウム半導体検出器について説明を受ける生徒の皆さん(左)
塚田教授、小山教授と生徒の皆さんで記念撮影(右)


令和2年7月27日(月) 令和2年度第1回IERセミナーを開催しました。

日 時 令和2年7月27日(月)14:00~16:00
発表者 難波謙二 所長
五十嵐康記 特任助教
演 題 1) Estimation of catchment scale water balance at Chernobyl in Ukraine using long-term field observations and model simulations.(五十嵐)

2) Strengthening of the environmental radiation control and legislative basis in Ukraine for the environmental remediation of radioactively contaminated sites.
(難波)
                          

環境放射能研究所(IER)では、所属教員による研究成果報告を「IERセミナー」として定期的に行っています。これは所属教員同士の交流、研究内容の研鑽を目的に開催するもので、今年度1回目となる今回のIERセミナーは、IERが2017年から他研究機関と共同で、ウクライナで展開しているSATREPSチェルノブイリプロジェクト(詳細はこちらから)に関連して、本プロジェクト代表研究者の難波所長および、プロジェクト参加研究者の五十嵐特任助教が発表を行いました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で遅れてのスタートを切った今年度初回のセミナーは、充分な換気とマスク着用、参加者間の距離を保つなど、感染防止のための配慮のもと行われ、33名の参加(ウェブでの聴講者を含む)がありました。

森林水文学が専門の五十嵐特任助教は、河川流量の長期観測データとモデルシミュレーションを活用したウクライナ・チェルノブイリにおける集水域の水収支評価について発表しました。五十嵐特任助教はこれまでのチェルノブイリプロジェクト研究で、チェルノブイリ規制区域の河川中のストロンチウム90(Sr-90)濃度の長期変化のモデル化に成功。Sr-90は河川流量と明瞭な関係があることを明らかにし、7月1日のプレスリリースでその研究成果を発表しました。今回の発表では、Sr-90を含む放射性物質の流出量の評価に大きく寄与する河川流量を正確に推定し、今後、気候変動などの影響を受け将来的にどのような変化が想定されるかを示しました。

続いて、難波所長がSATREPSチェルノブイリプロジェクトの中間報告として発表を行いました。IER所属教員のほとんどが参加し5年間にわたり実施される本プロジェクトは折り返し地点を過ぎたところです。現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響でこれまでのような現地調査が困難になっていますが、これまでに構築したウクライナ研究機関との協力体制により研究活動を進めています。広範囲に及ぶプロジェクトの研究対象を網羅した発表に参加者は興味深く聞き入っていました。



発表を行う五十嵐特任助教 難波所長
発表を行う五十嵐特任助教(左)と難波所長(右)

IERセミナーの様子 質疑応答の様子
IERセミナーの様子(左) 質疑応答の様子(右)