2020年4月のチェルノブイリ森林火災における放射性物質の大気輸送に関する研究

特任講師 五十嵐 康記

発表概要

環境放射能研究所(IER)は、ウクライナ原子力発電所安全問題研究所、ウクライナ数理機器・数理システム研究所、及びウクライナ・リウネ原子力発電所と共同で、2020年4月にチェルノブイリ規制区域内で発生した森林火災と、それによる放射性物質の大気への放出量とその輸送量に関する研究を実施しています。本研究は、SATREPSプログラム(JST・JICA、課題番号:JPMJSA1603)とウクライナ・科学技術アカデミー(No. 2020.02/0048)の支援を受けて実施されています。

この研究では、チェルノブイリ規制区域内の森林火災と放射性物質の放出とその大気輸送に着目しています。まず、衛生画像から特定した森林火災域と、そこに存在する放射性物質の量から、森林火災による大気への137Cs放出量を大気輸送モデルを用いて推定しました(図1)。その結果、2020年4月の森林火災では、137Csの総放出量は、574GBqと推定されました。ウクライナにおける成人の追加被ばく線量は、火災期間中に5.7nSv、2020年末までに30nSvと推定されました。これは、キエフにおける追加被ばく線量の0.003%であり、人への影響は無いと考えています。本大気輸送モデル研究で推定されたシミュレーションの値は、チェルノブイリ気象台およびチェルノブイリ・エコセンターのモニタリングサイトで観測された値をよく再現している事が明らかとなりました(図2)。一方で、放射性物質の大気への放出は、火災地域の地理的な影響、植生の種類などに強く依存しています。今後は、過去の森林火災の検証や実験により得られたデータに基づき、大気への放出量を明確にする必要があると考えています。

図表

図1. LEDIモデルによる、2020年4月4日から20日までの全期間における表層大気中137Cs濃度場(Bq/m3)。
Sampling a wood core for analysis of the radionuclide distributions in the tree trunk.
図2. チェルノブイリ気象台およびチェルノブイリ・エコセンターのモニタリングサイトにおける表面大気中137Cs濃度の測定データと、モデルシミュレーション結果との比較。
(青:モニタリングサイトにおける測定データ、黄:モデルシュミレーションによる結果)

研究の意義・ポイント

本研究では、(1)2020年4月の森林火災がチェルノブイリ規制区域内外の空間放射線量に及ぼす影響を、大気輸送シミュレーションと現地観測結果から評価し、 (2)森林火災からの放射性エアロゾル放出量を迅速に推定しました。

論文情報

論文はAtmospheric Pollution Researchウェブサイトに 2021年1月19日にオンライン公開されています。

雑誌名Atmospheric Pollution Research
論文タイトルSimulation study of radionuclide atmospheric transport after wildland fires in the Chernobyl Exclusion Zone in April 2020
URLhttps://doi.org/10.1016/j.apr.2021.01.010
著者Mykola Talerkoaa, Ivan Kovaletsbb, Тatiana Levaa, Yasunori Igarashic, Olexandr Romanenkod
*aInstitute for Safety Problems of Nuclear Power Plants, NAS of Ukraine
*bInstitute of Mathematical Machines and Systems Problems, NAS of Ukraine
*cInstitute of Environmental Radioactivity, Fukushima University
*dRivne Nuclear Power Plant