福島第一原子力発電所事故により派生した放射性セシウムの森林環境での移動

  • 福島第一原子力発電所の事故は福島の森林にも大きな影響をもたらた。
    福島県の森林面積は972千haで、県土面積の約71%を占めている(平成21年度)。このような自然豊かな環境であるが、森林環境での放射性物質の移動は詳しくわかっていない。
    チェルノブイリ事故での調査結果もあるが、福島とは気候・樹木の種類・土壌状態など異なり、そのままチェルノブイリのデータを福島に当てはめることは適切ではない。
    そこで、福島県内でいくつかの環境の異なる測定点を定め、さまざまな森林環境における放射性核種の長期的な動態調査と挙動の解明を目的とするのが当プロジェクトである。

    「環境省:環境回復検討会(第5回)平成24年7月31日 参考資料2『森林に関する基礎的な情報』」から引用
  • 平地と違い森林内では放射性物質は直接地表に沈着するのではなく、まず樹木の枝葉に沈着し、時間の経過によって下に落ちてくると考えられる。
    樹冠・枝葉に沈着した放射性物質は雨水によって地表に下りてくる。または落葉・落枝となって地表に落ちる。さらに地表に落ちた放射性物質は、雨水の影響で落葉・落枝から土壌表層へ移動する。
    森林内の土壌表層は有機物層(リター層)であり、これも平地とは環境が大きく異なる点である

    リター層(Litter-layer):森林において地表面に落ちたままで、まだ土壌生物によってほとんど分解されていない葉・枝・果実・樹皮・倒木など、すなわち落葉落枝類及び動物の糞などのデトリタスの堆積した層のこと。デトリタス(Detritus)とは、生物遺体や生物由来の物質の破片や微生物の遺体、あるいはそれらの排泄物を起源とする微細な有機物粒子のこと。
  • 土壌に浸透した放射性物質は、深さ10cm程度の間にとどまり、大きく移動することはないとみられている。しかし大雨による土砂災害などにより森林外へ流れ出る可能性もある。また、森林内部にも依然として放射性物質が存在し、それらがどのように移動・循環し、環境や生態系にどのような影響があるのかは詳しくわかっていない。
    このように森林環境での放射性物質の挙動を把握するために、さまざまな角度から観測を継続していかなければならない。
  • 福島県内の計画的避難区域の森林内に建設されたモニタリングタワー。このタワーに登って高度毎線量を測定する。地表では林内雨を溜めて線量を計測するタンクの設置や地面の深さ毎の線量計測などが行われている。